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Vol.12 中村寿



 

鰻の世界は老舗が多いが、昨今は諸事情で店を畳むところも見聞きする。新規参入はなおさら厳しいなかで、当社はあえて2015年に「瓢六亭」(ひょうろくてい)を立ち上げた。現在、当社の鰻専門店は東京、金沢など7店舗。関西式の地焼き鰻の店として徐々に認知されてきた。地焼き鰻を出すにあたり、欠かせない存在だったのが中村寿(なかむらひさし)だ。最初に鰻を裂いたのは小学校5年生の時だという中村は、鰻職人歴37年。長年、鰻と向き合ってきた中村にインタビューした。



Vol.12 中村寿

和食事業部 「瓢六亭 南平台」
中村寿(53歳)
山梨県出身、鰻職人。実家は、現在山梨市で「七福神」という鰻屋を営む。
高校卒業後、鰻も扱う日本料理店で働き、包丁のいろはを学ぶ。鰻の修業をしたのは名古屋にある「うなぎ 日本料理 名古屋なまずや」。親戚であったこともあり幼少期よりよく店に出入りをしていた。20才の時に父親と山梨市で鰻屋「七福神」を開店。地元に愛される鰻屋として繁盛させる。「瓢六亭」1号店である甲府の開店に興味を持ち、51歳で当社に入社。各店の料理人の指導にあたる。現在、「瓢六亭 南平台」にて鰻職人として従事する。
 


 

注文が入ってから、活きの良い鰻をさばき、焼く。

瓢六亭では、国産太鰻の2Pサイズ(1本500g)もしくは2.5P(400g)を中心に提供しています。9月の産地は宮崎県産、天然は長良川産など。美味しい蒲焼きをお客様に届けるには、とにかく、裂きたて、焼きたて。注文が入ってから、活鰻を1本6秒程で裂き、大きさにもよりますが、焼きと合わせて20分程でお客様へお出しします。鰻を裂く包丁は全国の地名が入った「関東型」「名古屋型」「京都型」「大阪型」「九州型」と5種類あるのですが、物心がついた時から使っているのは名古屋型です。早く裂き早く提供できるように、包丁鍛冶屋に特注で通常のものより鋭角に作ってもらっています。裂いたら次は串打ち。関東式は竹串で蒸しますが、関西式は金串を使用。皮と身の間の限りなく身に近い部分へ扇形に5本打ち、鰻が丸まらないようにあて串をして焼いていく。打つポイントのズレや曲がって打つと、身が崩れたり鰻が変形してしまいます。“皮と身の間の限りなく身に近い部分”へ平行に打つことは、職人でも難しく「串打ち3年」といわれる所以です。

美味しいものを知って、美味しいものを作る

初めて料理を作ったのは幼稚園の時でした。父の料理姿を見ていましたし、料理は生活の一部でした。外食業界で働くつもりはなかったのですが、父に一緒に店をやろうと言われ、決心しました。高校生の時です。父は本当に料理が好きだった。卒業後、地元の料理店で働き始めたのも、まずは包丁に慣れるため。その後名古屋にある「うなぎ 日本料理 名古屋なまずや」で修業をし、無事に鰻屋を開店しました。この時期は鰻だけでなく食に対して貪欲でした。食べたい物は勉強のためと何でも食べ、あそこに美味しいものがあると言われれば、北海道でもどこへでも飛んでいく。店で使用する醤油や味噌も、自分の鰻に合うものを取り寄せ、探し歩く。とにかく鰻だけではなく、美味しいものを食べよう知ろうと思っていた時期でした。美味しいものを知らないとその味は出せない。当時、鰻には絶対的な自信がありましたが(笑)、店に一緒に来店した鰻嫌いのお客様にも美味しいものを提供しようと思い、イタリアンやフレンチも学びました。食に対してやれることは何でもやりたかった。今思えば20代30代は、一生懸命働きお金も使い、味を知り、人間関係を築き、社会勉強をした人生の中で一番情熱があった頃でした。

長年鰻を焼いている親父には、一生勝てない

物心がついた時から鰻が近くにありました。父と遊んでいた時、暇だったらやってみるかと言われ、鰻を初めて裂いたのが小学校5年生の時。意外と上手くさばけたし、楽しかった。学生の時、弁当をあけると鰻の蒲焼きが入っていたこともあった。鰻重の弁当にがっかりしていると、友達はすごい!と驚き、弁当を交換してくれた。私は友達の“パン”が食べたかったのです。今思うと父に申し訳ないのですが、それくらい鰻は私にとって高価なものではなく身近なものでした。鰻屋を開店し、意見の相違から父と衝突することも増えました。若い頃は反発した時期もあった。それでも鰻から離れることがなかったのは父の背中を見てきたから。77歳になった父は今でも鰻職人として店に立ち、自分のお客様のために鰻を焼いています。

こだわり、探究心、それが極めるということ

長年培ってきた経験で、鰻を触った時の皮の感覚、見た目の色つやで“味”が想像できます。裂く時の包丁のすべりで、脂ののりや身のしまり方、肉質もわかる。昔から思い立ったら即行動してきました。例えば某ファミリーレストランの厨房のオペレーションに興味があった時は、どうして素人に料理が作れるのかと知りたくなり、夜中にバイトに行ってみた。もともと追求したくなる性格。誰に似たのでしょうか。
焼き一生。鰻を上手に焼けるかどうかは、感性と経験です。肌から伝わって感じる炭の熱とか、裂いた時の感覚で、どのタイミングで返せばよいか、体に覚えさせる。鰻は一匹一匹性格が違います。使う備長炭も火力調整が難しく生き物のよう。その上で全て同じように美味しく焼き上げるには一生かかる。私も9割くらいまではほぼ同じように焼けますが、そこから先、本当に納得した鰻を焼けたのは年に数回。と思って焼き台に立っています。満足したらそこで終わり。これからも鰻を焼き続けます。



瓢六亭 南平台


 

瓢六亭 南平台
東京都渋谷区南平台町17-13
【平日】
11:30 – 15:00(L.O.14:00)
17:30 – 23:00(L.O.22:00)※ドリンクL.O.22:30
【土日祝】
11:30 – 22:00(L.O.21:00)※ドリンクL.O.21:30
70席



 
※掲載内容は2017年9月12日現在の情報となります。